近年になって絶滅危惧種に選定された在来種の中には、もともと分布域の狭い希少種(イリオモテヤマネコなど)だけでなく、本来はどこにでも生息していた普通種が数多く含まれています。
トキ(野生絶滅)やコウノトリ等の鳥類、ニホンイシガメ等の爬虫類、タガメやゲンゴロウ等の水生昆虫などなど、昔はたくさんいたのに、気が付いた時には探しても見つからない、といった生き物がたくさんあげられます。
両生類に着目すると、その筆頭はニホンアカガエルではないでしょうか。
ニホンアカガエルは本州、四国、九州、隠岐、大隅諸島等に広く分布する日本固有種です。主に周囲を森林で囲われた水田地帯(一般に里山と呼ばれます)に生息するカエルの一種です。オタマジャクシの時期は水田等の浅瀬で暮らし、成体になった後は草地や森林等の陸地やその周辺の水辺で暮らします。繁殖期(冬場)になると水の溜まった水田等の浅瀬へと繁殖のために戻ってきます。
現在まで、ニホンアカガエルは環境省のレッドリストには掲載されていませんが、分布が確認されている多くの都府県ではレッドリストに選定されており(参考図)、最新版の千葉県レッドリストでは最重要保護生物(ランクA)に選定されています。
千葉県レッドデータブック(2011年改訂)に掲載されたニホンアカガエルの分布図を見ると、千葉県全域の広範囲から分布データが得られていることが分かります。本当に絶滅危惧種なのか?、と疑ってしまうほど膨大な分布情報が広範囲から得られているのです。
では一体、なぜ千葉県のニホンアカガエルは絶滅の危険度が最も高い最重要保護生物(A)に指定されているのでしょうか?
それは、分布域の各地で急速に個体数を減少させているためです。本来の分布域は非常に広いものの、広範囲からいくつもの個体群が同時に減少してしまっているのです。
その主な原因と言われているのが、産卵場所の消失です。具体的には、ニホンアカガエルが卵を産むための水場がなくなってしまっています。
この写真は浅瀬(水田等)に産み落とされたニホンアカガエルの卵塊です。写真から分かるように、ニホンアカガエルは水の中に卵を産みます。産卵場となる水田等に水が入っていないと卵を産むことができません。
ニホンアカガエルの産卵場が消失する原因はいくつもあります。
まず、開発によって繁殖場となる水田等の浅瀬が埋め立てられてしまうことです。また、上の写真のように耕作放棄によって藪化(乾燥化)してしまうことも産卵場所の消失に繋がります。
こちらは、干上がりかけたアカガエル類の卵塊です(オレンジ色の○で囲まれた部分にあるもの)。せっかく水たまりに産卵できたとしても、水が干上がってしまえば卵は乾燥し、全滅してしまいます。
3つ目は農業の近代化です。これも重大な問題です。
具体的には、圃場整備(冬場の乾田化、農業水路のコンクリート護岸化)によって、ニホンアカガエルの繁殖地や生息地となる水田の質が劣化したことが個体数減少の原因としてあげられます。乾田化により、繁殖期となる冬季に水が溜まらないようになると、水田で卵を産むカエルが繁殖できなくなってしまいます。一時的な降雨によって水たまりができたとしても、圃場整備によって水はけがよくなっているため、すぐに干上がって卵の発生が止まってしまいます。そこに水田があるにも関わらず、冬場に水が入っていないという理由で子孫を残すことができず、どんどんニホンアカガエルが減ってしまっています。
加えて、水路のコンクリート護岸化はニホンアカガエルの成体を直接的に減少させる恐れがあります。アカガエル類の指にはコンクリートに吸着できる吸盤が付いていないので、一度コンクリート護岸化された水路に落ちてしまうと這いあがることができず、そのまま死んでしまうからです。
この他に農薬によるカエル類への直接的な影響や、餌となる昆虫類等を減少させる影響等も懸念されています。
このように、千葉県内で急速に進行するニホンアカガエルの減少を食い止めるためには、第一に冬季にも水が枯れずに問題なく産卵できる水場の確保が必須です。産卵場所さえ確保できれば、現在進行中の個体数減少に歯止めをかけることができるかもしれません。また、吸盤のないニホンアカガエルがコンクリート護岸された水路に落ちても自力で脱出できるような措置を施すことも、有効な保全対策になると期待されています。
最後に、2008年から2022年にかけて投稿されたニホンアカガエルの分布データを地図上に整理してみましたので、ご紹介します。
千葉県内のどこにニホンアカガエルが残っているかを調べ、その記録を残すことは、今後の保全対策を検討する上で必須な課題となります。繁殖は12月から翌年4月の早春にかけた時期に行われますので、もし、成体や卵塊(季節報告)を発見された際は、是非とも生命のにぎわい調査団までご投稿ください。
Kidera, N., Kadoya, T., Yamano, H., Takamura, N., Ogano, D., Wakabayashi, T., Takezawa, M. and Hasegawa, M. 2018. Hydrological effects of paddy improvement and abandonment on amphibian populations; long-term trends of the Japanese brown frog, Rana japonica. Biological conservation 219: 96-104.
調査団員の皆様へ
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生き物を発見された際はまず、その生き物の写真を撮り、お手持ちの図鑑で調べてみてください。そして、「○○○」だと思うが特徴が少し違う、といったところまで調べていただけると助かります。
報告で種名が不明になっていた場合や、報告写真から判定して種名を変更した場合は、各月の報告一覧には、事務局で判定した種名を記入しています。
皆さんからいただく報告の中には、希少な生物の発見、生息状況の新たな発見、活き活きとした生きものの営み等の写真が多くあり、事務局としても大変楽しませていただいています。
環境省「 環境省HPー外来生物法のウェッブページ 」をご覧ください。