外来種、外来生物、侵略的外来種、特定外来生物。世の中には似たような用語が溢れています。この4つの用語の中で、外来種とは「人の手によって本来の分布域の外の”国”や”地域”から意図的または非意図的に移動されたもの(導入時期に基準はなく、有史以前も含まれます)」、侵略的外来種とは「外来種の中で、生態系や農林水産業、人の健康などに大きな被害を及ぼすもの」、外来生物とは「外来生物法によって定義されたもので、外来種の中で”国外由来の外来種”となるもの(基本的には、明治時代以降に導入されたものが対象となります)」、特定外来生物とは「外来生物の中でも、生態系等に被害を及ぼす又は及ぼす恐れがあると認められたもの」を表す言葉です。
図にあるように、外来種は国外由来の外来種(国外外来種)と国内由来の外来種(国内外来種)の2つに分けられます。この内、国外由来の外来種と呼ばれる生き物は、外来生物法では外来生物と呼ばれます。つまり、外来種と外来生物は似て非なるものです。
近年、テレビ番組や新聞、ネットなどで外来種や外来生物等の用語を見る機会が増えたように感じますが、これらの用語を意識して使い分けている方はどのくらいるでしょうか。もしかしたら、混同して覚えている方や、単なる書き間違いや言い間違いだろうと気にも留めない方もいるかもしれません。
今回、紹介するのは上記4つ用語のうち「外来種」です。外来種の中でも、在来種だと勘違いされることが多いもの、近年になって実は外来種であることが分かったものをピックアップしました。
長年、在来種と信じられてきたカメですが、化石が発掘されていないこと、過去の分布情報が江戸時代以降に限られること、遺伝的な特徴が韓国や中国の集団とほぼ一致すること等の様々な理由から、江戸時代以降に韓国や中国から移入された外来種であるとの説が2010年頃から提唱され、現在では広く受け入れられるようになりました。
*ただしクサガメの外来種としての取り扱いに関しては研究者の間でも意見が異なる部分があり、日本国内には在来の集団(例えば、長崎県の対馬)が残されているかもしれないと主張する方もいます。
クサガメは日本固有種のニホンイシガメと交雑し、生まれてくる交雑個体には生殖能力があることから、遺伝的攪乱によって純粋なニホンイシガメがいなくなってしまうことが問題視されています(雑種ばかりになってしまう)。また、クサガメのオスがニホンイシガメのメスと交雑して雑種が生まれるということは、ニホンイシガメのメスが本来生むはずであったニホンイシガメの純系の卵が産出されないことを意味します(ニホンイシガメが生まれない)。つまり、純粋なニホンイシガメから雑種(やクサガメ)の個体群へと置き換わってしまうことに加え、そもそもニホンイシガメが子孫を残しにくくなってしまう恐れがあるのです。
現在、千葉県内を含めた日本各地において、ニホンイシガメの生息地にクサガメが侵入するとともに、両種間の交雑個体が多数発見されていることから、ニホンイシガメにとって大きな脅威の1つとなっています。
夏場になると家屋の壁やコンビニ等の窓、自動販売機等にべたーっと張り付いている姿を見かけるヤモリの仲間です。実はこのヤモリ、以前より外来種ではないかと疑われてきましたが、近年行われた遺伝子解析によって、日本に生息するニホンヤモリは外来種であることが支持されました。具体的には、約3000年前に中国から九州に渡来した後、人の移動や物流に便乗して東に分散したと推測されています(参考資料)。
千葉県が2011年に発行したレッドデータブックや生命のにぎわい調査団により得られたデータで作成したニホンヤモリの分布図(千葉県, 2011;柴田, 2011)を見て分かるように、県内での分布は市街地が広がる北西部に集中する傾向にあり、自然度の高い南部の丘陵地帯ではほとんど分布が確認されていません。このような分布パターンもまた、ニホンヤモリが外来種であるとの考えと矛盾しません。
なお、現在までに千葉県レッドデータブックの改訂作業は行われておらず(最新版は2019年に発行された千葉県レッドリスト、千葉県, 2019)、従来通りニホンヤモリは在来種扱いとなっています。在来種(餌生物)への影響もよく分かっていません。
千葉県にはもともと在来のイノシシが生息していましたが、1970年代中頃に絶滅したと考えられています(千葉県イノシシ対策マニュアル)。しかし、1980年代になると県南部と北部の一部地域で再び生息が確認されるようになりました。現在、千葉県内で見られるイノシシは人間による放獣(狩猟目的)によってもたらされたもので、国内外来種として扱われています。
ヌマガエルは本州の中部以西、四国、九州、奄美群島、沖縄群島に生息する日本在来のカエルですが、関東以北にはもともと生息していなかったため、千葉県で見られるものは人為的に移入された国内外来種となります(侵入経緯はよく分かっていません)。近年、利根川流域、印旛沼流域、房総丘陵の一部地域、館山市の平野部等の水田帯を中心に分布拡大しており、よく見かける生き物の1つへと仲間入りしてしまいました。
体色は暗灰色から灰褐色であり、体表には小さな隆起があります。中には、背中を縦断するように白い線が入る個体も見られます。
千葉県内には、国内外来種のヌマガエルと姿が似た在来種のムカシツチガエルが房総丘陵の河川等を中心に生息しています。館山市の平野部ではムカシツチガエルの生息地にヌマガエルが侵入している地域があり、両種を取り違えないよう注意が必要な地域もあります。なお、ムカシツチガエルとヌマガエルについては前に紹介したことがありますので、ご興味のある方はこちらのページをご覧ください。
コハクオナジマイマイは西日本(九州、中国西部など)に自然分布する在来(日本固有種)の貝類ですが、千葉県にはもともと生息していなかったため、千葉県のものは国内外来種となります。県内では、近年になって急速に分布拡大していると言われています。
殻の中央部に見られる黄色い領域は殻の色ではなく、黄色の軟体部が殻を通して見られるものです。
ヨコヅナサシガメは公園や校庭などの大きな木の樹幹などの身近で見られることから、たびたび在来種であると勘違いされることがあります。実際は中国から東南アジアを原産とする外来種です。
サシガメの名の通り、昆虫に口吻を突き刺して体液を吸う肉食性のカメムシの仲間(カメムシ目サシガメ科)です。活動期は単独で見られますが、冬季になると日当たりが悪く温度変化の少ない環境において、集団で越冬する姿が観察できます。
今号では、在来種と勘違いされることの多い外来種について紹介してきました。今回紹介したものは、外来種の中のほんの一部です。気になる方は、千葉県生物多様性センターが発行する「千葉県生物多様性ハンドブック2 外来生物がやってきた」等の資料をご覧ください。
皆さまが通勤や通学、散歩の際に多くの生き物と出会うことができますので、どの生き物が在来種で、どの生き物が外来種なのか、外来種である場合はどのような影響や問題が生じているのかを意識していくことで、千葉県内の生物多様性や生き物どうしの繋がりをより深く知ることができるようになるかもしれません。
なお、今回のコラムは皆様に全ての外来種を駆除してもらうことを意図したものではありません。野外で見かけた際は、どのような形態で、どのような生態をしているかなど、まずじっくり観察してみてください。
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生き物を発見された際はまず、その生き物の写真を撮り、お手持ちの図鑑で調べてみてください。そして、「○○○」だと思うが特徴が少し違う、といったところまで調べていただけると助かります。
報告で種名が不明になっていた場合や、報告写真から判定して種名を変更した場合は、各月の報告一覧には、事務局で判定した種名を記入しています。
皆さんからいただく報告の中には、希少な生物の発見、生息状況の新たな発見、活き活きとした生きものの営み等の写真が多くあり、事務局としても大変楽しませていただいています。
環境省「 環境省HPー外来生物法のウェッブページ 」をご覧ください。