近年、千葉県内で分布が拡大しているチョウ類がいます。クロマダラソテツシジミという小型のシジミチョウの仲間です。今号では、県内でよく見られるシジミチョウの仲間とクロマダラソテツシジミについて紹介します。なお、文中のチョウの大きさは前翅の付け根から翅頂までの長さ(前翅長)を示します。
県内でよく見られるシジミチョウ類として、以下の7種について紹介します。写真のキャプションは撮影者の団員番号です。
最もよく見られるシジミチョウです。大きさは10~15mmです。翅の表面は主に紫青色で、裏面は白色から暗灰色で全体に小さな黒斑が並びます。幼虫の食草はカタバミです。生息環境は草原、農地、公園、人家周辺、河川等で、平地から低山地にかけた様々な環境で見られます。成虫は4月から11月にかけて観察できます。
比較的よく見られるシジミチョウです。大きさは15~17mmです。翅の表面は主に黒褐色で、前羽には広く橙赤色が広がり、小さな黒斑が並びます。裏面は前翅の外縁と後翅は灰色ですが名前のとおり橙赤色と黒色の斑点が見られます。幼虫の食草はスイバやギシギシです。生息環境は草原、農地、公園、人家周辺、河川等で、平地から山地にかけた様々な環境で見られます。成虫は3月下旬から11月下旬にかけて観察できます。
大きさは16~22mmです。翅の表面は金緑色が広がり、裏面は全体的に褐色をしています。尾状突起が見られます。幼虫の食草はハンノキ、ヤマハンノキ等です。森林(ハンノキ林)、湿地、河川等、平地から丘陵地にかけた湿潤な環境に生息します。成虫は6月から8月中旬にかけて観察できます。
大きさは15~20mmです。翅の表面は黒色をベースにして、中央部に紫青色が広がります。幼虫の食草はアラカシ、イチイガシ、コナラ、クヌギ、カシワ、ミズナラ等です。森林(照葉樹林、落葉広葉樹林)、林縁、公園、人家周辺等、平地から山地にかけた幅広い環境に生息します。成虫は枯葉にとまった状態で越冬するため、ほぼ周年観察することができます。
大きさは約14mmです。翅の表面は全体的に黒褐色で、裏面は全体的に白色で碁石状の黒斑が多数点在します。幼虫は純肉食性で、タケ・ササ類に付くササコナフキツノアブラムシ、タケノコアブラムシ等です。森林(竹やササ類)、林縁、人家周辺等、平地から山地にかけて生息します。やや暗い環境を好みます。成虫は5月から10月にかけて観察できます。
大きさは20~25mmです。翅の表面は茶褐色で、中央部にはオスで橙色、メスで白色の斑紋があります。裏面は全体的に銀白色です。幼虫の食草はクズ、フジ、クララ、タイワンクズ、ハリエンジュなど。森林、疎林、草原、農地、公園、人家周辺や河川等の、平地から低山地にかけた幅広い環境に生息します。成虫は常緑樹の葉の裏で越冬するため、ほぼ周年観察することができます。
大きさは13~18mmです。翅の表面は広く淡紫色で、後翅の外縁部には黒点列があります。裏面は全体的に灰黄色で白色の波状紋があり、後翅の後援部には橙色の斑紋と黒点が見られます。後翅には尾状突起があります。形態や模様は、後述のクロマダラソテツシジミと非常に似ています。幼虫は食草としてエンドウ、ダイズ、インゲン等のマメ科の栽培種を好み、クズ、ハギ類等のマメ科の野生種も利用します。草原、農地、公園や河川等の、平地から丘陵地にかけたマメ科植物の生える農地に生息します。
南方系のチョウで、関東地方では秋に多く観察されます。世代を繰り返しながら北上し、越冬限界点を超えて産卵された卵は寒さのために死んでしまうという「死滅回遊」を行うことが知られています。なお、房総半島南部等の温暖な地域では、成虫を周年観察することができます。
クロマダラソテツシジミは、近年になって千葉県各地で見られるようになったシジミチョウの仲間です。大きさは約15mmで、翅の表面は主に青紫色で、後翅外縁に黒点列があります。裏面は主に淡褐色(灰色)で、翅後半部には白色の線状の斑紋が並び、前半部には黒点があります(この特徴から、ウラナミシジミと区別することができます)。また、翅後部には黒点と橙色の斑紋があり、細長い尾状突起が見られます。
幼虫の食草はソテツです。生息環境は農地、公園、人家周辺等で、主に平地のソテツが植えられた明るい環境で見られます。近年、千葉県内各地での分布拡大が生じていることから、食草となる観賞用のソテツに加え、マメ科やミカン科等の農作物への食害が懸念されています。温暖な地域では成虫を周年観察することができるため、千葉県内でも越冬している可能性があります。
千葉県では、クロマダラソテツシジミを外来種として扱っています。クロマダラソテツシジミの原産地は、南アジアから東南アジアの熱帯・亜熱帯の地域です。日本への侵入は約30年前と言われています。まず、1990年代に沖縄県で初めて確認され、その後、九州や関西等でも確認されるようになり、2010年頃になって関東でも見られるようになりました。千葉県では、2009年に館山市で初めてクロマダラソテツシジミの発生が確認されました。その後、南房総市、富津市、鴨川市、銚子市や船橋市からも確認されるようになり、既に県内全域へと分布拡大している恐れがあります。
千葉県を含む本州でクロマダラソテツシジミが発生するようになった原因としては、①気流などを利用した自力での飛来、②ソテツの苗などに付随した導入、③愛好家による放蝶等があげられています。分散能力が高い上、人為的な移動による分布拡大が生じやすい種であることから、今後の侵入状況を注視していくことが望まれます。一般的なチョウ類観察シーズンは過ぎてしまいましたが、もしクロマダラソテツシジミを発見された際は、是非とも写真におさめ、生命のにぎわい調査団の生き物報告まで投稿していただけますと幸いです。