皆さんは千葉県にウミガメの産卵地があることをご存知ですか?
実は、県内にはアカウミガメが産卵にやってくる砂浜があります。
アカウミガメの産卵地と聞くと、暖かい琉球列島を想像する方が多いかと思いますが、実は千葉県にも房総南部から九十九里平野を中心に産卵にやってきます。具体的には、東京湾岸の富津岬(富津市)から館山市を周り、飯岡(旭市)までの砂浜海岸に広く産卵地があると言われています。
日本国内におけるアカウミガメの産卵地は琉球列島、宮城県以南の太平洋岸、石川県以南の日本海沿岸に分布します。その中で、千葉県はアカウミガメが恒常的に産卵する日本国内の地域としては北限域にあたるとされており、アカウミガメの保全上とても重要な産卵地の1つと言えます。
そこで、今号ではアカウミガメについて、分布域、日本国内及び千葉県内での生息状況、減少要因等について紹介します。
アカウミガメは太平洋、インド洋、大西洋、地中海の温帯から熱帯に生息します。主要な産卵地は日本の琉球列島から関東地方の太平洋岸、オーストラリア北東部、オマーン、ブラジル、アメリカ、ギリシャ等にあります。この内、日本は北太平洋における唯一の産卵地であると言われています。日本で生まれた幼体は黒潮に乗って分散し、太平洋を回遊して北アメリカ周辺の餌生物の豊富な海域で過ごし、背甲長が60cmを超えるまでに成長した個体は太平洋を横断して日本近海まで戻ってきます。
日本のアカウミガメの産卵回数は1990年代に大きく減少しましたが、その後は徐々に回復傾向にあると言われています。現在、アカウミガメは環境省のレッドデータブック(環境省, 2020)で絶滅危惧ⅠB類(EN)、千葉県のレッドリスト(千葉県, 2019)では最重要保護生物(ランクA)に選定されています。
これまでにアカウミガメが減少した最も重大な要因としては、漁具に混獲された個体の溺死と考えられています。カメは肺呼吸する生き物ですので、網や釣り針にかかって息継しにくくなると弱ってしまい、やがて死亡してしまいます。また、防波堤や沿岸構造物が建設されることや、河川からの砂の供給が減少したことでウミガメが産卵する砂浜が消失しています。砂浜の奥行きが狭くなったり、ブロック等の構造物が設置された場合は、行く手を阻まれたウミガメは産卵せずに海へと戻ってしまうことがあります。さらに、砂浜への人の立ち入りや自動車の乗り入れ等によって卵が潰されてしまうことも懸念されています。そこで、これらの減少要因に対する影響を緩和させる保全策が講じられるようになってきました。 アカウミガメをはじめとしたウミガメ類は海中に棲み、普段は陸上に上がってこないため見かける機会がほとんどありません。見かける機会としては、砂浜に打ちあがった死骸(ストランディング)や産卵時期に上陸したメス成体の産卵行動の観察に限られるでしょう。
千葉県内の砂浜にもアカウミガメの死骸が打ちあがることがあります。中には、甲羅に多数のフジツボを付けた大型の個体が打ちあがることがあります。この死骸を見つけることによって、千葉県近海にアカウミガメが生息することに気付くことができます。
アカウミガメの生息に気付くもう1つの方法は、5~8月頃に産卵のために上陸したメス成体に出会うことです。産卵は私たちが寝静まった夜中に行われるため産卵時期に出会うことは困難ですが、砂浜にできたアカウミガメの移動した跡を確認することによっても、その場所にアカウミガメが上陸したことに気付くことができるでしょう。
また運が良ければ、8月から9月頃には、夜中に孵化した幼体が地中から脱出する瞬間を見ることができるかもしれません。
ウミガメの幼体は孵化後、一斉に地中から脱出し、海へと向かっていきます。孵化幼体は数日間、餌も食べずに沖へと向かって泳ぎ続けます。これはフレンジーと呼ばれる状態で、幼体が外洋に進出するために重要な生態だと考えられています。
今号では、千葉県内にも生息するウミガメとして、アカウミガメの分布や生態、現状について紹介しました。今回紹介したように、アカウミガメに出会うことは簡単ではありません。
*ウミガメにはライトなどの明かりが悪影響を及ぼします。産卵するメスは夜に明るく照らされている場所を避けるようになり、地表に出てきた幼体も明るい光があると海の方向が分からなくなってしまいます。また、幼体は小さく気付かずに踏んでしまうかもしれません。そのため、観察の際は必ず専門家の指導を受けてください。
そのため、生命のにぎわい調査団にはウミガメに関する情報がほとんど投稿されてきていません。そこで、今後、千葉県内でアカウミガメの死骸や産卵中の個体、または孵化幼体を発見された際には是非とも生き物報告へとご投稿いただけますと幸いです。