千葉県に生息するチョウ類の中には、近年分布を拡大させている種がいます。もともと千葉県には生息していませんでしたが、温暖化とともに西日本から分布を拡大させたものや人為的に放逐されたものがいます。代表的なものとして、温暖化とともに分布を拡大させていると言われているのがナガサキアゲハ、人為的に放逐されたと言われているのがアカボシゴマダラです。
生命のにぎわい調査団ではナガサキアゲハを生き物報告の調査対象種に選定しています。アカボシゴマダラは調査対象生物ではありませんが、生態系に多大な影響を及ぼすおそれのある特定外来生物であることから、分布などの生息状況を把握する必要があります。今回はこの2種のチョウについて紹介していきます。
ナガサキアゲハ(Papilio memmon)はアゲハチョウ科の大型のチョウです。オスの翅(表)は全体的に黒色をしていますが、メスは前翅の基部に赤斑があり、前翅と後翅には大きな白斑が見られます。アゲハチョウ科の多くの種で見られるような尾状突起はありません。
ナガサキアゲハのもともとの分布域の中心は、1920年頃には四国南部や九州以南でしたが、温暖化に伴い分布を北方へと拡大させていると言われています。これは、冬季の気温が上昇したことでナガサキアゲハが越冬できるようになったためと指摘されています。このことから、温暖化による影響を示す環境指標生物として注目されています。近年では、千葉県を含めた関東地方の各地でも見かける頻度が増えており、生命のにぎわい調査団の生き物報告への投稿も年々増加しています。
ナガサキアゲハの分布拡大に繋がる別の要因として、餌場面積の増加もあげられています。ナガサキアゲハの幼虫の主要な食草は栽培ミカン類であるため、ミカン類の栽培面積の増大に伴ってそれを食べるナガサキアゲハの分布が拡大したのではないかとも指摘されています。現在では、温暖化と食草栽培の普及による影響の両方がナガサキアゲハの北上に繋がったものと考えられています。
アカボシゴマダラ(Hestina assimilis assimilis)はタテハチョウ科の中型のチョウです。春型と夏型で色彩が大きく異なることが特徴的で、春型は翅の表裏ともに地色は黒色で白斑があり、夏型はこれに加え後翅にいくつかの赤斑が入ります(春型には赤斑が薄く出る個体もいます)。
アカボシゴマダラは中国、朝鮮半島や台湾が原産地で、もともと千葉県には分布していなかった外来種です。意図的な放蝶により導入されたものと考えられています。なお、奄美群島には在来亜種のアカボシゴマダラ(Hestina assimilis shirakii)が分布しており、外来のアカボシゴマダラ(Hestina assimilis assimilis)とは後翅の赤紋の色彩や形状が異なります。
特定外来生物であることから、在来生態系への悪影響が懸念されています。アカボシゴマダラの幼虫は在来種のゴマダラチョウやオオムラサキの幼虫と食草を巡る資源競争を起こす恐れが指摘されています。また、アカボシゴマダラの成虫(オス)はゴマダラチョウやオオムラサキの成虫(メス)への繁殖阻害(繁殖干渉と呼ばれます)を起こし、在来種のメス親の生存率を低下させたり、子孫を残しにくくするなどの悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。このような背景から、奄美群島に生息する在来亜種(Hestina assimilis shirakii)を除く種アカボシゴマダラ(Hestina assimilis)は特定外来生物に指定されています。
千葉県内に侵入したナガサキアゲハやアカボシゴマダラの分布拡大状況を把握する上で、皆様からの投稿が非常に有用な情報となります。今後はこれまでに得られた分布情報を整理して分布図を作成することにより、どの地域を中心に分布を拡大させているのか等、現状把握を行っていくことが望まれます。
もし、県内で上記2種のチョウ類を見かけた際は生命のにぎわい調査団の生き物報告までご投稿ください。
● 北原正彦・入来正躬・清水剛. 2001. 日本におけるナガサキアゲハ(Papilio memnon Linnaeus)の分布の拡大と気候温暖化の関係. 蝶と蛾 52(4): 253-264.
● 吉尾政信・石井実. 2001. ナガサキアゲハの北上を生物季節的に考察する. 日本生態学会誌 51: 125-130.
● 日本チョウ類保全協会. 2012. フィールドガイド 日本のチョウ. 誠文堂新光社.
● 一般財団法人自然環境研究センター. 2019. 最新 日本の外来生物. 平凡社.
調査団員の皆様へ
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生き物を発見された際はまず、その生き物の写真を撮り、お手持ちの図鑑で調べてみてください。そして、「○○○」だと思うが特徴が少し違う、といったところまで調べていただけると助かります。
報告で種名が不明になっていた場合や、報告写真から判定して種名を変更した場合は、各月の報告一覧には、事務局で判定した種名を記入しています。
皆さんからいただく報告の中には、希少な生物の発見、生息状況の新たな発見、活き活きとした生きものの営み等の写真が多くあり、事務局としても大変楽しませていただいています。
環境省「 環境省HPー外来生物法のウェッブページ 」をご覧ください。