生き物報告で得られたデータの活用例１

今号では、生命のにぎわい調査団の生き物報告によって得られたデータの活用例を１つ紹介していきます。千葉県の広範囲に生息するために、個人の調査では迅速に現状を把握することが困難な種を対象にしたものです。

生き物報告では県内広域に分布する種（以下、広域分布種）であるカワセミを調査対象生物の1つに選定しており、調査開始以降、数多くの発見報告が寄せられてきました。今回は、これらの膨大なデータを整理・分析し、広域分布種のカワセミが好む環境の抽出や、未調査地域での生息適地を予測してみました。

今回の主人公、カワセミです。

ではさっそく、生き物報告に投稿されたデータからまとめた分布図をみてみましょう。

分布図から分かるように、カワセミは野田市、銚子市から館山市と南房総市を含めた千葉県の広範囲に分布していることが読み取れます。

実はこの図、千葉県レッドデータブック 2011年改訂版に掲載された分布図とよく似ています。

よく見ると生命のにぎわい調査団の結果（赤丸の図）では北東部に分布地点が少ないなど、一部の地域に異なる点が見受けられますが、２つの分布図はおおむね一致しているように見えます。つまり、レッドデータブックのように専門家らが集めたデータを集約して作成した分布図に匹敵する結果が、にぎわい調査団によって得られたと言えるでしょう。

次に、河川や湖沼を中心に分布するカワセミの分布と、分布に影響しそうな環境要因の地図を重ね合わせて図示してみました。

図から、カワセミは平野部、河川や湖沼面積の広い環境、森林地帯には少ない、人為的に改変されたような環境の傍でも生息できそうだな、といったことが読み取れます。

＊地形的湿潤指数は土砂の溜まりやすさの指標であり、河川下流部ほど値が高くなる傾向にあります。

＊＊標高の単位はm、各土地利用面積の単位はha、地形的湿潤指数は単位なし。

次に、カワセミの生息適地率（0-1.0の範囲の値で、1.0に近いほど生息に好適であることを示す）と各環境要因との関係を推定してみました。貢献度は各環境要因の相対的な重要性を表す指標で、値が高い変数ほどカワセミの分布に重要であることを示します（全ての変数の値を合計すると100%になる）。

また、曲線が右上がりだと正に影響、右下がりだと負に影響、山なりだと中程度の値の環境を好むといったように解釈します。今回の場合、カワセミは河川湖沼面積が高い環境を好む一方で、森林面積が広い環境や標高の高い地域はあまり生息に適していないと解釈できます。

最後に、カワセミの分布が確認されていない地域を含めた千葉県全域での生息適地率の分布を予測してみました。今回使用した解析方法（MaxEnt）を用いることで、天気予報のようにカワセミの分布域を予測し、県内のどこがカワセミの生息に好適なのかを視覚的に捉えることができるようになります。

今後も、生き物報告によって蓄積された各対象生物の分布情報を上手く活用し、各種の生息状況の把握に役立てていきます。このように、団員の皆さんから寄せられた報告を蓄積することで、予測も含めた様々な生物の分布情報が見えてくるかもしれません。そのためにも、より多くの発見報告をお待ちしていますので、皆様の参加、報告をよろしくお願いします。

調査団報告　２０２３年２月

２月分のデータ（Excel）は以下のリンクよりダウンロードできます

ただし、無許可で報告データを公開することを禁じます