田植えが始まり、アマガエルやシュレーゲルアオガエル等のカエルたちの鳴き声がにぎやかになる季節がやってきました。カエル類以外にも、それらを食べにやってくるヘビ類や鳥類など様々な生き物たちにも出会える季節となりましたが、この時期に注意が必要になる生き物もいます。それは、通称“ジャンボタニシ”と呼ばれる外来の大きな貝類です。南アメリカ原産の8cm(殻長)ほどの大きさの貝類で、もともとは食用目的に輸入されたものが遺棄等で野外へ逸出し、各地で定着・拡散したと考えられています。
和名でスクミリンゴガイ(Pomacea canaliculata)と呼ばれるこの外来種は田植え直後の苗を食害することから、農業被害を引き起こす厄介者として昭和59年には植物防疫法に基づく有害動物に指定され、さらに平成27年には、生態系被害防止外来種リストの重点対策外来種に位置づけられて多くの地域で駆除対象となっています。
あまり馴染みのない方もいるかと思いますが、奇抜な卵を見れば、「あ、あの貝のことか!」と思い出す方がいるかもしれませんね。
スクミリンゴガイは非常に目立つ色(主にピンク色)をした卵塊をイネや畔、水路の岸などに産み付けます。ときに、コンクリート護岸された水路に集団で数多くの卵塊を産み付けることがあります。
農業被害を起こす厄介者としての一面を持っていますが、野生生物の野外調査を行うにはうってつけの特徴も持っています。とても目立ち、他の生き物と間違えにくいスクミリンゴガイの卵塊は、侵入状況を早期に把握する上でとても役に立ちます。このような特徴もあってか、生き物報告にはスクミリンゴガイに関するいくつもの発見報告が投稿されています。
生命のにぎわい調査団では調査対象生物の1つとしてスクミリンゴガイの発見報告を収集してきました。そこで、2008年から2022年にかけて投稿されたスクミリンゴガイの発見地点を整理し、地図化してみました。その結果、千葉県内の北部から東部にかけた範囲から発見されており、特に九十九里平野を中心に侵入・定着していることが分かりました。
しかし、千葉県農林水産部が発行する「ジャンボタニシの防除対策について」の資料(PDF)を見ると、スクミリンゴガイは既に千葉県内の広範囲(南は鴨川市や富津市、北は香取市や銚子市)に分布を拡大させていることが読み取れます(参考サイト)。加えて、 単に侵入が確認されただけではなく、多くの地域で農業被害を起こしていることも明らかになっています。
今回、にぎわい調査団の報告データをもとに作成した分布図を見る限り、調査団員による調査では詳細なスクミリンゴガイの分布情報を収集することが可能なものの、既存資料に比べると生息圏を網羅できていないようです。特に、いすみ市、大多喜町、君津市等の房総半島の南部地域や千葉市、市原市等の県中部からの報告が全くありません。これは、千葉県内での調査団員数に大きな偏りが見られること(詳しくは、3月号を参照)、卵塊以外に目立つ特徴がないために見落とされやすいことが理由として考えられます。実際に、スクミリンゴガイの発見報告は卵が見つかる時期に集中していたことから、繁殖期以外にはスクミリンゴガイの存在に気付きにくいものと考えられます。
農業被害を引き起こすスクミリンゴガイのさらなる分布拡大を防いだり、根絶を目指した防除対策を検討していく上では、侵入域の最前線を早期に把握することが求められます。今後、スクミリンゴガイの卵塊(成貝を含む)を見かけた際は、是非とも生命のにぎわい調査団の生き物報告までご投稿ください。皆様と一丸になって、千葉県内で分布拡大中のスクミリンゴガイの生息状況を明らかにしていきたいと思います。なお、投稿される際は、卵塊もしくは貝殻の写真も添付していただけますと幸いです。
調査団員の皆様へ
住所・電話番号・メールアドレスの変更があった場合は、調査団事務局のメールアドレスへご連絡ください。(団員番号と氏名をお忘れなく)
住所・電話番号の変更の場合で、メールを使われない方は、FAXまたは電話にてご連絡ください。
生き物を発見された際はまず、その生き物の写真を撮り、お手持ちの図鑑で調べてみてください。そして、「○○○」だと思うが特徴が少し違う、といったところまで調べていただけると助かります。
報告で種名が不明になっていた場合や、報告写真から判定して種名を変更した場合は、各月の報告一覧には、事務局で判定した種名を記入しています。
皆さんからいただく報告の中には、希少な生物の発見、生息状況の新たな発見、活き活きとした生きものの営み等の写真が多くあり、事務局としても大変楽しませていただいています。
環境省「 環境省HPー外来生物法のウェッブページ 」をご覧ください。