5月から6月頃になると、「野外でヘビを見かけました!」、「どうしたらいいですか?」、などの問い合わせが増えてきます。ヘビは凶暴だ(噛みついてくる)、毒があるといったイメージが強く浸透しており、多くの人にとってヘビは追い払うべき対象だと認識されているからでしょう。
ですが、そんな心配は必要ありません。これは千葉県に生息するヘビのほとんどが臆病な生き物で、自ら人間を襲ってくることはないからです。また、毒を持っているヘビが2種生息していますが、これらも人間から危害を加えない限り噛みついてくることはありません。
現在、日本各地において、生息環境の悪化や餌生物の減少などによってヘビ類が減少していることが指摘されています。千葉県においても同様に個体数の減少が懸念されており、県内に生息する全てのヘビ類が千葉県レッドリストで保全対象に選定されています。ヘビだからという理由で安易に駆除をせず、優しく見守ってほしいという思いを込めて、今号では県内に生息する7種のヘビの形態的特徴や毒の有無、生態について紹介していきます。この機会に、ヘビ類に興味を持たれる方が増えると幸いです。
*どうしてもヘビの仲間は苦手という方は、残念ですがこの先は開かずに…
日本固有種です。環境省のレッドリストには掲載されていませんが、千葉県レッドリストのランクはD(一般保護生物)です。
毒はありませんが噛みつくことがありますので、不用意に触らないようにしましょう。
アオダイショウは主に鳥類(小鳥)や小型哺乳類を捕食し、カエルを捕食することもあります。木登りが得意のため、地上だけでなく樹上で見られることもあります。
かつての日本家屋では、ネズミを追って屋根裏に入り、家の守り神として大切にされる地域もありました。
平地から丘陵地にかけて、水田や畑、人家周辺で見られる普通種で、都市部で見つかることもありますので、散歩中に見かけることがあるかもしれません。県内ではほぼ全域から記録がありますが、年々見かけにくくなっています。
日本固有種です。環境省のレッドリストには掲載されていませんが、千葉県レッドリストのランクはC(要保護生物)です。
赤い目が特徴的です。4本の黒色の横線が見られますが、生息場所によって横線が薄いものやほとんど見られないもの、全身が真っ黒な個体がいるなど、様々な変異が見られます。よくアオダイショウと間違われますが、目の色の違いから容易に区別できます。
日中に水田などの開けた環境でよく見られます。無毒ですが、気性が荒く噛みついてくることがあるので、観察の際は注意が必要です。
カエル、トカゲ、他のヘビ類、鳥類や小型哺乳類等の幅広い生き物を捕食します。千葉県では主にカエルを捕食しているため、圃場整備や耕作放棄等によって餌のカエル類が減少することによってシマヘビも減ってしまうことが懸念されています。これまで県内のほぼ全域から記録がありますが、多くの地域において年々見かけにくくなっています。
日本固有種です。環境省のレッドリストには掲載されていませんが、千葉県レッドリストのランクはB(重要保護生物)です。
ずんぐりした体形で周囲に溶け込むような体色や模様をしています。森林とその周辺に生息する卵胎生の子どもで生まれるヘビです(他の多くのヘビ類は卵生です)。夜行性のイメージが強いヘビですが、出産前になるとお腹の仔の成長を促すためにたびたび日光浴を行うことが知られています。
死亡例は少ないものの有毒のヘビのため、噛まれた際はすぐに病院等で血清治療等の処置を行ってもらう必要があります。ですので、ニホンマムシを見かけた際はむやみに触らない、近づかないようにしてください。また、知らずに踏みつけたり、草刈り時にうっかり手を近づけて噛まれないように注意しましょう。
県内のほぼ全域から記録がありますが、近年は北総地域ではほとんど見られなくなりました。現在の分布の中心である房総丘陵においても発見する機会が減っています。
ニホンマムシの場合、有毒で噛みつくなどの危険なイメージからか、見つけたらすぐに殺処分されることが多く、減少要因の1つなっていると考えられます。
日本固有種です。環境省のレッドリストには掲載されていませんが、千葉県レッドリストのランクはD(一般保護生物)です。
赤色の模様が特徴的ですが、地域によって模様や体色には大きな変異があり、別種と思わせるような個体もいます。千葉県で主にみられるのは上記の写真にある赤色のタイプですが、房総丘陵の一部地域では青黒っぽい個体も見られます。
ヤマカガシは2種類の毒を持つヘビです。1つ目はヤマカガシ自身で作り、顎の奥の方にある毒腺から染み出るもので、人間の死亡例があるほどのかなり強い毒です。しかし、比較的おとなしいヘビのため、危害を加えない限り噛まれる心配はほとんどなく、また、毒牙が顎の奥の方にあるため、深く嚙まれなければ毒が注入されることはほとんどありません。2つ目は餌となるヒキガエルを食べることで、ヒキガエルが持っていた毒を取り込んだものです。頸部を掴もうと危害を加えると、頸部の皮膚の下から毒を出すことがありますので、むやみに触らないようにしましょう。
こちらは、毒のある頸部を広げて威嚇する行動をとるヤマカガシです。執拗に追い回すなどヤマカガシに危害を加えた際に、このような行動をとることがありますので、見かけた際はそっとしておいてあげましょう。
ときたま、「田んぼでコブラを見かけた!」といったことが聞かれます。南西諸島にはコブラ科のヘビ類(ハイ、イワサキワモンベニヘビやウミヘビ類)が生息していますが、千葉県にはコブラ科のヘビは生息していません。おそらく、写真のようにフードを広げて頭部を上げた大型のヤマカガシのことをコブラと勘違いしてしまうのだと思われます。
ヤマカガシは有毒ヘビですが、比較的臆病なため近づいただけで逃げていきます。むやみに触らない限り噛みついてくることはありませんので、見かけた際は優しく見守ってあげてください。写真を撮る際はなるべく距離を取りましょう。
*死亡事故や重傷化する事故が数例起きているので、見かけてもむやみに触らないようにしましょう。
日本固有亜種です。環境省のレッドリストには掲載されていませんが、千葉県レッドリストのランクはD(一般保護生物)です。
噛みつくことが滅多にないおとなしいヘビで、毒もありません。ヒバカリという名前の由来は、噛まれると「その日ばかりの命」からきていますが、実際は毒もなく、噛みつくこともほとんどないおとなしいヘビというのは有名な話です。
水田や湿地等の水辺環境に生息し、カエルの幼生や成体、小魚やミミズなどを捕食します。千葉県内ではほぼ全域から発見されており、比較的出会いやすいヘビの1つです。ただし、全長が40-60cmほどと小型で、薄暗い環境や薄明薄暮に出現することから、実際に生息していても見落とすことが多いヘビでもあります。
滅多に噛まないため観察しやすいヘビではありますが、総排泄腔(糞、卵や生殖器をだす部分)から悪臭や汁を出すので注意しましょう(他の多くのヘビも同様です)。
日本固有種です。環境省のレッドリストには掲載されていませんが、千葉県レッドリストのランクはB(重要保護生物)です。
よく幻のヘビと紹介されますが、平地から山地にかけた広い範囲に生息します。おそらく、夜行性のために出会う機会が少ないことから、幻と表現されるようになってしまったのでしょう。千葉県においても、報告件数は少ないものの、県内の広範囲からシロマダラが発見されています。
シロマダラは全長30-70cmほどの比較的小型のヘビで、ニホンカナヘビやヒガシニホントカゲなどの爬虫類を専門に捕食するスペシャリストです。そのため、シロマダラが見られる環境は餌となるトカゲ類も豊富な環境と言えるでしょう。
毒はありませんが気性が荒く噛みついてくることがありますので、むやみに触れないようにしましょう。
日本固有種です。環境省のレッドリストには掲載されていませんが、千葉県レッドリストのランクはB(重要保護生物)です。主に丘陵地から山地の森林に生息しています。ネズミやモグラ等の小型哺乳類を中心に捕食します。小型哺乳類を捕食するために、これらが隠れている巣穴に潜り込むことが知られています。
幼体は赤地に黒斑が入る派手な体色をしていますが、成体になると地色は赤みがかった褐色や茶褐色となり、黒斑が散在するものと散在しない個体が見られます。
比較的おとなしく無毒のヘビですが、しつこく触ろうとすると噛んでくることがありますので、観察する際には注意が必要です。
ヘビは捕食者であるため、彼らの存在は生物多様性の豊かな生態系を示す象徴となります。これは、ヘビは種によって食性が異なる(カエル食、トカゲ食、鳥類・小型哺乳類食、なんでも屋など)ため、捕食者であるヘビの種類の多さは、多種多様な餌生物が生息する豊かな環境であることを示唆するからです。このようなことから、ヘビの発見報告(分布データ)を収集することは千葉県内の生物多様性を把握する上でとても重要です。
どうしても、恐怖心や知らないがために嫌悪感を持って避けられがちですが、少し敬意を持って見ていただけるなら、存在の意味も、ユニークな姿かたちも神秘的に見えてくるはずです。
ヘビは隠れるのが非常に得意な生き物です。そのため、実際に生息していても、その存在に気づきにくく、広域的な生息状況を把握することが困難な生き物の1つです。そこで、もしヘビ類を発見された際は是非とも写真におさめ、にぎわい調査団の生き物報告までご投稿いただけますと幸いです。
*なお、ヘビの中には毒を持っていたり、気性が荒いものもいますので、観察や撮影を行う際は十分に距離をとり、安全確認を行った上で実施してください。
多種多様なヘビが生息できる環境がなくなってしまわないよう、常日頃より自然環境の観察に努め、環境の変化をいち早く察知していくことが望まれます。そこで、今後も生命のにぎわい調査団による生物モニタリングの継続や団員の少ない地域における団員数の増加に繋がるよう、普及啓発にも力を入れていきたいと思います。
千葉県. 2011. 千葉県レッドデータブック―動物編(2011年改訂版)
関慎太郎・疋田努. 2018. 野外観察のための日本産爬虫類図鑑 第2版. 緑書房.
調査団員の皆様へ
住所・電話番号・メールアドレスの変更があった場合は、調査団事務局のメールアドレスへご連絡ください。(団員番号と氏名をお忘れなく)
住所・電話番号の変更の場合で、メールを使われない方は、FAXまたは電話にてご連絡ください。
生き物を発見された際はまず、その生き物の写真を撮り、お手持ちの図鑑で調べてみてください。そして、「○○○」だと思うが特徴が少し違う、といったところまで調べていただけると助かります。
報告で種名が不明になっていた場合や、報告写真から判定して種名を変更した場合は、各月の報告一覧には、事務局で判定した種名を記入しています。
皆さんからいただく報告の中には、希少な生物の発見、生息状況の新たな発見、活き活きとした生きものの営み等の写真が多くあり、事務局としても大変楽しませていただいています。
環境省「 環境省HPー外来生物法のウェッブページ 」をご覧ください。