今号では、生命のにぎわい調査団に送られてくる生き物(千葉県内に生息する野生生物)を対象に、一般的に「種の判別が難しい生き物」や「種名が混乱しやすい生き物」について紹介します。また、「この生き物は何ですか?」といった問い合わせが多い生き物についても紹介します。
写真下部の種名の横にある数字は撮影者の団員番号(例、a0000)です。
千葉県内には姿形がよく似ており、種を誤って判別(同定)してしまいがちな生き物たちが生息しています。そこで、これらの生き物について、種を識別する際のポイント等を紹介します。
千葉県には在来種のニホンイシガメ、外来種のクサガメ、アカミミガメ(たいていは亜種のミシシッピアカミミガメ)、由来のよく分からないスッポン類(ニホンスッポンまたはチュウゴクスッポン)が広く分布しています。この内、特徴的な黄色い模様や線のあるクサガメは、成熟したオス(ほぼすべての個体)が真っ黒くなり(黒化)、黒化個体がニホンイシガメと間違えられることがあります。しかし、甲羅にあるキール(山なりのようなもの)は、クサガメで3本であるのに対し、ニホンイシガメは1本であることから容易に区別することができます。
アカミミガメのオスもまた成熟個体(の一部)が黒化します。黒化と言っても真っ黒になるのではなく、暗めの体色(写真中央)になるものから黄色っぽくなるもの(写真右)まで様々です。この内、黄色くなる個体(写真右)のなかには、ニホンイシガメ(写真左)と非常によく似た個体が見られます。
判別に迷った際は、甲羅の縁にあるギザギザの有無や、お腹側の甲羅の色を見ることで簡単に区別できます。ニホンイシガメのお腹は真っ黒ですが、アカミミガメの黒化個体(黄色い個体)は黄色く、容易に2種を区別することができます。
クサガメとアカミミガメは千葉県内の河川下流部や池などに広く定着しているので、ニホンイシガメと混同しないよう、上記の識別点を観察してみてください。
まず、2種のヘビ類、アオダイショウとシマヘビです。アオダイショウは全体的にオリーブ色をしたヘビで、シマヘビはクリーム色の下地に濃い縦線が入ったヘビです。中には、縦線の薄いシマヘビが見られることがあり、アオダイショウと誤って判別してしまうことがあります。そのようなときは、ヘビの目の色を確認し、赤色であればシマヘビ、そうでなければアオダイショウと簡単に区別することができます。
アオダイショウとは異なり、シマヘビは赤みをおびた色の目(虹彩)をしています。
淡水巻貝のスクミリンゴガイは、南米を原産とする外来種です。日本に生息する他の貝類とは異なり、ピンク色の卵塊を産みます。特徴的な卵塊の存在をもとに侵入状況を容易に把握することができますが、県内には姿形のよく似た在来の淡水巻貝が生息しています。
スクミリンゴガイと在来の淡水巻貝はそっくりな見た目をしていますが、ポイントを抑えておけば容易に区別することができます。よく使われる識別点は螺塔(らとう)と呼ばれる貝殻上部の形状です。在来種のヒメタニシとマルタニシの螺塔はスクミリンゴガイに比べて高く、螺塔の低いスクミリンゴガイは全体的にずんぐりした見た目をしています。
こちらは真っ赤な体色をした典型的なアメリカザリガニです。このような個体であれば、種判別を間違う人はほとんどいないでしょう。しかし、真っ赤ではない小型のザリガニが見つかることもあります。この全く異なる形態的特徴から、県内にはアメリカザリガニとは異なる別種のザリガニが生息しているのでないか誤解される方もいます。
この写真のように、黒っぽい小さなザリガニが在来種のニホンザリガニと誤解されることがあります。しかしそれは誤りで、その実態はアメリカザリガニの子どもです。
ニホンザリガニは北海道や北東北(青森県、岩手県、秋田県)の河川上流域や山間の湖沼等、水温20℃以下の冷たくきれいな水に生息しており、そもそも千葉県には分布していません。県内でニホンザリガニを思わせるような黒っぽいザリガニを発見された際は、アメリカザリガニの子どもだと即座に判断しても問題ないでしょう。
なお県内では、特定外来生物に指定されるウチダザリガニ(全体的に灰色をしたザリガニ)が捕獲された事例がありましたが、その後の発見記録がなく、現在は生息していないものと考えられています。
毛のない不思議な哺乳類を見つけたけど、この哺乳類は何ですか?
こういった問い合わせを受けることが度々あります。
多くの場合は、疥癬症によって毛が抜けたと思われるタヌキであることが多いです。疥癬症は、動物の皮膚に住み着く小さなダニ(ヒゼンダニ)によっておこる皮膚の病気のことです。
人が感染すると一時的なかゆみや発疹が出ると言われていますので、衰弱して可哀そうだからといって安易に接触しないようにしましょう。自然なことですので、優しく見守ってあげるようお願いします。なお、ペットの犬や猫も疥癬症に罹患する恐れがありますので、疥癬症のタヌキ等には近づけないように注意してください。
皆様から報告される生き物報告の中には、正式ではない和名の表記で投稿されるケースがあります。同じ種のことを指しているにもかかわらず、和名が正式なものでないことによって別々の種としてデータが管理されてしまう恐れがあり、今後この問題に対処したいと考えています。なお、正式な和名とは学会などが提唱しているものなどです。
例えば、和名がヒガシニホントカゲである生き物に対して、「ニホントカゲ」と「ヒガシニホントカゲ」の2つの名称で投稿されてしまうと、データ管理上は別々の2種が生息することになってしまいます。
データを管理する上で、和名を統一しておくことが望ましいです。そこで、以下で紹介する生き物については、正式ではない表記で投稿していないかなどご確認いただき、今後の投稿の際にご注意いただけますと幸いです。
なお、1つの種に対して異なる和名で投稿されたものに関しては、データ整理の際に種名の統一化を図っています(例えば、ニホントカゲはヒガシニホントカゲへと修正しています)。
よくあるのは、ニホンイタチをイタチとして投稿されてしまうことです。生命のにぎわい調査団が始まった時点では「イタチ」が標準だったため、生き物報告フォーム(調査対象の生き物)の見つけた生き物のプルダウンでも「イタチ」の表記となっておりましたが、現在はデータ管理の際にニホンイタチと統一し、表記しています。
これは、国内の一部の地域では別種のシベリアイタチ(別名チョウセンイタチ)が生息しており(長崎県対馬では在来種、その他の地域では外来種)、2種を区別するためです。なお、これまでに千葉県内からのシベリアイタチの確認例はありません。
調査対象以外の生き物の欄から投稿することもできますが、その際は「ニホンイタチ」の表記にしていただけますと幸いです。
生命のにぎわい調査団の調査マニュアルではニホントカゲとして紹介されてきたトカゲですが、現在はヒガシニホントカゲと呼ばれるようになりました。
これまでニホントカゲと呼ばれていたトカゲがニホントカゲとヒガシニホントカゲの2種に分けられたのは2012年のことです。この時から、千葉県に生息するトカゲはヒガシニホントカゲとなったのです。県内でこのトカゲを発見された際はヒガシニホントカゲとして「ヒガシ」を略さないようお願いいたします。
ヒガシニホントカゲの幼体やメスの成体の尾は綺麗な青色をし、体全体にかけて白っぽい縦線が入ります。
オスの成体は幼体やメスとは異なる体色をしており、まるで別種を思わせる姿形をしています。
千葉県内には上記の写真に見られるような体全体がつるつるしたトカゲは他に生息しておりませんので、似たようなトカゲを発見された際はヒガシニホントカゲとして投稿してください。
一般的にはマムシと呼ばれる毒蛇ですが、和名はニホンマムシです。県内で見かける機会が減ってしまった生き物ですので、発見された際は是非ともご報告ください。なお、毒蛇のため、写真を撮る際は十分な距離(1m以上離れるなど)をとるようにしましょう。
メダカも、2012年にミナミメダカとキタノメダカの2種に分けられました。現在、日本には異なる2種のメダカが生息することが広く認識されるようになってきました。生命のにぎわい調査団マニュアルでは当時基準のメダカのままとなっていますが、ミナミメダカと読みかえていただけますと幸いです。
なお、近年になって品種改良したと思われる通称”ヒメダカ”が野外で見つかることもあります(ペットショップ等で飼育または餌用の個体として広く販売されている)。ミナミメダカの情報を投稿される際は、写真と一緒に投稿していただけますと幸いです。ミナミメダカと異なり、ヒメダカは黄色及びオレンジ色、または白色をしており、外見から容易に区別することができます。
調査団員の皆様へ
住所・電話番号・メールアドレスの変更があった場合は、調査団事務局のメールアドレスへご連絡ください。(団員番号と氏名をお忘れなく)
住所・電話番号の変更の場合で、メールを使われない方は、FAXまたは電話にてご連絡ください。
生き物を発見された際はまず、その生き物の写真を撮り、お手持ちの図鑑で調べてみてください。そして、「○○○」だと思うが特徴が少し違う、といったところまで調べていただけると助かります。
報告で種名が不明になっていた場合や、報告写真から判定して種名を変更した場合は、各月の報告一覧には、事務局で判定した種名を記入しています。
皆さんからいただく報告の中には、希少な生物の発見、生息状況の新たな発見、活き活きとした生きものの営み等の写真が多くあり、事務局としても大変楽しませていただいています。
環境省「 環境省HPー外来生物法のウェッブページ 」をご覧ください。