調査団報告2024年7月

千葉県に生息するニホンヤモリの分布状況

ニホンヤモリの成体(撮影:a0963)

ニホンヤモリとは

ニホンヤモリは本州、四国、九州や対馬などの島嶼に生息するヤモリの仲間です。本州では、住宅地や商店街などの人工的な構造物が主な生息地となっており、比較的、私たちの身近に暮らす生き物と言えます。今号では、ニホンヤモリの生態や県内での生息状況について紹介します。

コンクリートの塀に張り付くニホンヤモリ(撮影:a0826)

夜行性のため昼間に出会うことはほとんどありませんが、夜になると民家やコンビニ等の窓や塀、自動販売機等に出没し、明かりに集まってきた昆虫を捕食する姿がたびたび見かけられます。

樹木に張り付くニホンヤモリ(撮影:a0963)

一方で、公園等の人工物の少ない環境でも見かけることがあります。例えば、街路樹も生息地の1つとなっており、日中は薄暗い樹の隙間や樹木プレートの裏などに隠れていますが、プレートを裏返す、または夜間に探しに行くと見つけることができます。

千葉県内での分布状況

ニホンヤモリの分布情報を整理し、地図化することで興味深い分布パターンが見えてきます。例えば、2011年に公開された千葉県レッドデータブックのニホンヤモリの分布図を見ると、分布が北西部の一部地域に集中し、北西部以外の地域からはほとんど情報がないことがわかります。

千葉県レッドデータブックに基づくニホンヤモリの分布(千葉県、2011)

言い換えると、都市部(市街地の広がる北西部)ではニホンヤモリの報告が多くありますが、郊外や自然度の高い丘陵地(県南部)などからの報告はほとんどありません。ではなぜ、ニホンヤモリの分布は都市部に偏るのでしょうか。

分布が都市部に偏る要因:外来種である可能性

名前に「ニホン」と付くことから、ニホンヤモリが日本在来または固有種と勘違いされている方もいるのではないでしょうか。実は日本だけでなく、朝鮮半島南部や中国中東部にも生息しています。むしろ、南蛮貿易が盛んだった16世紀頃に中国東部から侵入した可能性が指摘されていました。

近年になると遺伝子解析を用いた研究が進展し、日本に生息するニホンヤモリが外来種であることを支持する研究も発表されています。具体的には、約3000年前に中国から九州に渡来した後、人の移動や物流に便乗して東に分散し、関東には220年~100年前に進出したと推測されています(参考資料;ニホンヤモリは外来種だった!遺伝子と古文書で解明したヤモリと人の3千年史(東北大学 プレスリリース), https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2022/12/press20221201-02-gecko.html)。これは、ニホンヤモリの生息には人との関わりが重要な意味を持つことを示します。千葉県に生息するニホンヤモリの分布が市街地に集中する傾向とも合致し、県内に生息するニホンヤモリが外来起源であることを示す根拠の1つになります。

県内での取り扱い

このように、日本に生息するニホンヤモリが古い時代の外来種であったことが明らかにされつつあります。しかし、これらの研究成果が発表されてから現在までに千葉県レッドリストの改訂作業は行われていないため、従来通りニホンヤモリは一般保護生物(D)としての在来種扱いとなっています。今後の研究の進展やレッドリストの改訂作業によっては、ニホンヤモリの将来的な扱いは変わっていくかもしれません。

調査団員へのお願い

生命のにぎわい調査団の生き物報告に基づくニホンヤモリの分布図

こちらは生命のにぎわい調査団の生き物報告に投稿されたニホンヤモリの分布情報を整理し(赤色の四角は分布が確認されたメッシュ)、地図化したものです。千葉県レッドデータブックで公開された地図と同様に、ニホンヤモリは県北西部の市街地を中心に分布しており、北西部以外の地域(特に丘陵地帯の広がる県南部)からの情報は非常に少ないままです。

人口密度の高い北西部には団員が多くいる一方で、人口密度の低い地域には団員が少なく、実際にニホンヤモリが生息していても団員に見つかりにくいといった可能性があります。本当に、人為的な環境ばかりに生息しているのか、実は自然度の高い環境にも生息しているのかを明らかにするためにも、ニホンヤモリの分布情報が必要です。今後、千葉県内でニホンヤモリを発見された方は(特に、分布図にポイントのない地域)、是非生き物報告にご投稿いただけますと幸いです。

なお、ニホンヤモリが古い時代に侵入した外来種であることが分かりつつある一方で、餌となる昆虫類等への悪影響はよく分かっていません。むしろ、多種多様な生き物が暮らす都市的な環境に生息していることから、長い間、様々な生き物と「食う―食われる」の関係を通して共存してきたと考えることもできます。「外来種=悪」と捉えられがちですが、現在見られる千葉県内の生態系の中では、様々な生き物たちと関わりあう重要な構成員の1つとなっているのかもしれません。今後の研究の進展に期待するとともに、ニホンヤモリについてもっと理解を深めていきたいと思います。

引用文献

千葉県. 2011. 千葉県の保護上重要な野生生物 -千葉県レッドデータブック- 動物編. 千葉.

関慎太郎・疋田努. 2016. 野外観察のための日本産爬虫類図鑑. 緑書房.

松井正文・森哲. 2021. 新 日本両生爬虫類図鑑. サンライズ出版.

調査団報告 2024年7月

7月分のデータ(Excel)は以下のリンクよりダウンロードできます

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外来種対策:外国産の生きもの・外来生物、国内でも他地域の生きもの・移入生物は、野外に放さないでください。
飼育した生きものは責任をもって、最後まで飼いましょう。外来生物によって、日本の在来の生物(植物、動物)は、大きな影響を与えられています。国内、千葉県の生態系と生息する生きものを守るためには、知る、調べる、行動する/駆除するなどが必要になっています。

外来生物に関する情報は

環境省「 環境省HPー外来生物法のウェッブページ 」をご覧ください。

  • 外来生物被害予防三原則
  • ~侵略的な外来生物(海外起源の外来種)による被害を予防するために
  • 1.入れない
  • ~悪影響を及ぼすかもしれない外来生物をむやみに日本に入れない
  • 2.捨てない
  • ~飼っている外来生物を野外に捨てない
  • 3.拡げない
  • ~野外にすでにいる外来生物は他地域に拡げない。
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