近年、日本各地から、セアカゴケグモが発見されたことを取り上げるニュースが流れるようになりました。生物多様性センターにも県内各地から、たびたびセアカゴケグモに関する問い合わせがあります。今号では、セアカゴケグモの生態や侵入状況等について特集します。
セアカゴケグモはオーストラリアを原産とする外来種で、特定外来生物に指定されています。オスは全長6 mm、メスは10 mmほどの大きさになる毒グモです。全体が黒色で、メスには腹面と背面の両方に目立つ赤い模様があります。メスはα-ラトロキトシンと呼ばれる神経毒を持ち、咬まれると激しい痛みと嘔吐、腹部痙攣等の症状をともなうと言われています(オスには毒がありません)。セアカゴケグモはおとなしく攻撃性はありませんが、むやみに触れると咬まれることがあります。なお、既に抗毒血清が開発されており、日本では咬傷被害はあるものの死亡例は報告されていません。
セアカゴケグモの日本で初めての発見事例は、1995年の大阪府のものです。貨物や資材に紛れる形で持ち込まれ、日本各地へと分布を広げていると考えられています。国立環境研究所が公開する分布図から分かるように、セアカゴケグモは中部・関西地方を中心に、北海道から沖縄県にかけて日本全国で確認されるようになりました。
自然環境下では、開けた環境(裸地)から森林にかけての崖地、岩下の隙間や窪みなどの乾いた環境に生息すると言われています。また、人の生活圏内にも適応しており、都市部や港湾の建物の周辺や側溝の内部、フェンスの基部、駐車場、墓地の石下等の様々な環境でも見られます。我々が生活するすぐそばにセアカゴケグモが生息しているのです。
そこで、以下より、千葉県内でセアカゴケグモが確認されやすい環境の一部を紹介します。
排水溝の側面や蓋の裏に網を張って潜んでいることがあります。蓋やグレーチングの付いた側溝も目撃例が多い箇所です。
自動販売機の下に網を張って潜んでいることがあります。お金を落とした際は、セアカゴケグモがいないかを確認しましょう。
電話ボックスの中で見つかることもあります。携帯電話やスマートフォンが普及した今となっては、電話ボックスを利用する機会はほとんどないかもしれませんが、利用される際は近くにクモがいないかを確認した方が良いでしょう。
雨や風から逃れられる外壁の隙間もまた、セアカゴケグモの好適な隠れ場所となっています
「セアカゴケグモを発見した際に千葉県自然保護課や警察等へ通報及び報告は必要ありません」
セアカゴケグモを発見された際は素手で捕まえたりせず、咬まれないように注意した上で、ご自身で殺処分を行っていただくようお願いしています。環境省では靴で踏みつぶす、または殺虫剤で殺処分することを薦めています。日本での死亡例はないものの有毒生物であることから、大人が安全を確認した上で対応していただけますと幸いです。
咬まれた場合の相談は、お近くの保健所へお問い合わせください
(https://www.pref.chiba.lg.jp/kenfuku/kenkoufukushi/soudan.html#ichiran)
なおセアカゴケグモの発見情報は、「生命のにぎわい調査団」の生き物報告へご報告いただけますと幸いです。また、発見されたクモがセアカゴケグモかどうかを判定してほしい場合は、当センターまで写真をお送りください。
このように今号ではセアカゴケグモに関して紹介してきました。セアカゴケグモが比較的身近で見られるくらいに拡大していることから、皆様が咬まれないようにクモと遭遇する恐れのある環境を紹介するとともに、発見された際の注意点を共有することが目的で、セアカゴケグモ探しを推奨するものではありません。正確な知識を持って、正しい対応をしてくださるようお願いします。
当センターにはたびたびセアカゴケグモの発見に関する情報が寄せられますが、以下のように似たクモと間違われる例がありました。
ヒメグモ科:特徴的な腹部の形がよく似ているため間違われることがあります。腹部・腹面の赤い砂時計模様の有無が識別ポイントです。
ハイイロゴケグモとクロゴケグモ:セアカゴケグモのオス(メスと異なり、腹部・背面に赤い模様がない)や、その他のヒメグモ科のクモがハイイロゴケグモやクロゴケグモと誤って通報・報告されることがあります。なお、この2種のゴケグモ類は千葉県内では確認されていません。
その他:野外で見かけることの多い在来種のジョロウグモと間違われることもあります。腹部の赤い模様があるといった特徴から、セアカゴケグモと間違われてしまったようです。
セアカゴケグモと類似する他のクモ類や、その識別ポイントについては環境省九州地方環境事務所が公開するWEBページが参考になります。
https://kyushu.env.go.jp/wildlife/mat/m_2_8.html
新海栄一. 2017. 増補改訂版 日本のクモ. 文一総合出版.
自然環境研究センター. 2019. 最新 日本の外来生物. 平凡社.