数多くの昆虫、爬虫類や両生類が冬眠しているこの時期に繁殖するカエルがいることをご存知ですか?
日本国内に広く分布する日本固有種のニホンアカガエルとヤマアカガエルは冬季から早春に産卵します。両種は森が隣接する水田地帯を中心に生息しており、我々の身近な環境で見ることができます。また、タゴガエルも本州、四国、九州にかけて広く分布し、3月から6月にかけて繁殖するとされています。
千葉県ではヤマアカガエルが1月から2月頃、ニホンアカガエルは1月から4月頃に繁殖します。両種が同所的に生息する環境では、ヤマアカガエルの方が先に産卵すると言われています。また、タゴガエルは主に2月から3月にかけて繁殖し、地域によって繁殖時期や期間が異なることが知られています。
*写真のキャプションに記載されている記号(例:a0000)は撮影者の団員番号で、記載のないものは千葉県生物多様性センターが所有するものです。
ニホンアカガエル(全長:3~7cm)とヤマアカガエル(全長:4~8cm)は非常によく似た見た目をしていますが、目から体側に伸びる背側線(赤色の矢印)の形状で区別することができます。ニホンアカガエルの背側線はほぼ直線であるのに対し、ヤマアカガエルでは背側線が鼓膜を超えた辺りで折れ曲がる点で区別できます。また、ニホンアカガエルの腹面には模様が見られませんが、ヤマアカガエルの腹面(のど元)には黒色の斑紋が出ることが多いです。鳴き声にも違いが見られ、鳴のう(柔らかな皮膚の膜【鳴き袋】)を持たないニホンアカガエル(オス)はキョッキョッキョッ…となく一方で、ヤマアカガエル(オス)は下あごの根元にある1対の鳴のうを膨らませてキャララ、キャララ…と鳴きます。
タゴガエル(全長:3~6cm)はニホンアカガエルやヤマアカガエルに比べると四肢が太短く、ずんぐりした見た目をしています。ヤマアカガエルと同様に、背側線は鼓膜を超えた辺りで折れ曲がります。タゴガエルの上あごと下あごには暗色の細かな斑紋が見られますが、ヤマアカガエルに見られるような大きな黒色の斑紋は見られません。
ヤマアカガエルとニホンアカガエルはよく似た環境に産卵します。水田等の浅瀬や水溜まり等、開けた環境に卵を産むため、繁殖状況を容易に把握することができます。1匹のメス親が1つの卵塊を産むことから、卵塊数をカウントすることでその場に生息するアカガエル類の生息状況を把握することができると考えられています。
水田や道端の水溜りに産卵することから、水が溜まるまでは繁殖できません。そのため、時期的には繁殖期に突入しているものの、降雨や水田の管理等によって産卵場所が出現するまでは卵を産みません。先日は何もなかったけど、今日様子を見に行ったらたくさんの卵塊が見られた、といったことも多々あります。夜間の気温が高く、多くの雨が降った際には、アカガエル類が産卵を始めていないかと、考えてみてはいかがでしょうか。
ヤマアカガエルとニホンアカガエルの卵塊は非常によく似た見た目をしていますが、慣れた人にはどちらの卵塊かを見分けることができるそうです。具体的には、ヤマアカガエルの生みたての卵塊は手で持ち上げるとこぼれる一方で、ニホンアカガエルの産みたての卵塊は手で持ち上げることができるそうです。
1月から2月頃の冬季に産卵したアカガエル類は産卵後に再び冬眠すると考えられています。水田内や畔等の地中で春が来るまでじっとしていますので、しばらくの間は出会えなくなります。暖かくなった4月以降には地上へと出てきますので、元気な姿が見られるまでは優しく見守ってあげてください。
一方で、タゴガエルは丘陵地帯を流れる河川周辺の崖地で繁殖するため、より出会いにくいカエルと言えます。
タゴガエルは水がしみ出る崖地の穴の中に卵を産むため、ニホンアカガエルやヤマアカガエルと比べると卵塊を見つけるのは困難です。しかしその一方で特徴的な鳴き声を発するため、その存在には気づきやすいです。崖の近くで「ググッ」や「グッグォッ」といった鳴き声が聞こえた際は、近くでタゴガエルたちが繁殖しているかもしれませんね。
大木淳一. 2006. 幻のカエル がけに卵をうむタゴガエル. 新日本出版社, 東京.
関慎太郎・松井正文. 2021. 野外観察のための日本産 両生類図鑑 第3版. 緑書房, 東京.