生命の繋がりと言えば、生き物たちの”食う―食われる”の関係を想像する方が多いのではないでしょうか。捕食者と餌生物のように、”生きた生き物”同士の関係が注目されがちですが、生き物の”死骸”もまた、一部の生き物にとっては、生き延びる上で必要不可欠な食べ物です。
死骸を食べる生き物は分解者や腐肉食動物(スカベンジャー)、ときにお掃除屋さんの名で呼ばれることがあります。
中には、死骸を中心に食べるもの(例えば、ハゲワシ類、シデムシ類)、生きた生き物を捕食する一方でそれらの死骸も食べるもの(例えば、タヌキ、カメ類、アリ類)など、様々な生き物がいます。今回は、そんな生き物たちの腐肉食について紹介します。
*これよりページ下部には、昆虫類が集団で写っている写真や動物の死骸の写真がありますので、苦手な方はご注意ください。
生き物の死骸を食べる身近な生き物は何ですか?
と聞かれて、真っ先に思いつくのはアリ類ではないでしょうか。アリは花粉や樹液に集まったり、植物の種子を巣まで運んで食べたり、生きている昆虫等の動物を積極的に捕食したりしますが、様々な動物(主に昆虫)の死骸を食べる雑食性の生き物として有名です。
ノコギリハリアリやダルマアリ、ケブカハリアリのように、主に生きた生き物を襲って食べる捕食性のアリもいますが、私たちが持っているアリのイメージはやはり、生き物の死骸をせっせと運ぶ、お掃除屋さんとしての姿ではないでしょうか。
1枚目の写真はクロオオアリ(写真中央の右側)と思われる個体が、自分よりも大きな鱗翅目(ガやチョウ)の一種の死骸を運ぶ場面です。
2枚目の写真はクロクサアリが集団でセミの幼虫の死骸に群がっている場面です。羽化に失敗して死んでしまったセミの幼虫はアリにとっては貴重な食べ物です。
私たちの身近で見られるアリは数多くいますが、実際にどのような生き物と密接に関わっているかを知っている方は多くないでしょう。冬が過ぎ、アリたちが活動を始める春になったら、道端にいるアリ類にも目を向けてみてはいかがでしょうか。もしかしたら、私たちが想像していなかったような生き物の死骸をせっせと運んでいるかもしれません。
アメンボ類は水中に落ちた小型昆虫やそれらの死骸、ときに両生類の卵塊等を食べる捕食者です。ハエ類などの小型昆虫から、自分と同じくらいの大きさのガガンボ類などの体に針のような口を刺し、消化液で溶かして吸ってしまいます。
今回は珍しい事例として、アメンボ類が自分よりもはるかに大きなカエルの死骸に群がり、集団で食べていた事例を紹介します。
写真に写っているのは、ナミアメンボと思われる昆虫がモリアオガエルの死骸に集団で口先を刺し、体液を吸っている場面です。実は、日本に生息するアメンボ類が昆虫以外の生き物(特に脊椎動物)の死骸を食べていた事例はほとんど知られていません(例えば、トノサマガエルやシュレーゲルアオガエル、ウシガエルの卵塊を食べた例があるだけ)。もし、アメンボ類が何か生き物の死骸を食べている現場に遭遇した際は写真に収め、ぜひとも生命のにぎわい調査団までご報告ください。
淡水に生息する多くのカメ類は植物も動物も食べる雑食性の捕食者ですが、水中や陸上に落ちている生き物の死骸も積極的に食べることから、生態系内でのお掃除屋さんとしての役割を担っていると考えられています。例えば、最近の研究によって(参考資料)、水中に浮かぶ魚の死骸を素早く分解する(食べる)ことで、水質悪化を抑制する役割を担っている可能性があることが報告されています。
写真にあるカメはアメリカ合衆国のミシシッピ川流域を原産とする外来種のミシシッピアカミミガメ(以下、アカミミガメ)が集団で魚の死骸を食べている場面です(白矢印の先に死骸を食べるカメがいます)。アカミミガメは在来の水草類や水生昆虫などを食べたり、種間競争によって在来種のニホンイシガメを駆逐してしまうことから、生物多様性を低下させる侵略性があります(今後、特定外来生物に指定される予定です)。しかしその一方で、コイなどの大型魚の死骸を素早く分解するお掃除屋さんとしての一面もあるのかもしれません。
日本国内に生息するカメについては、在来種のニホンイシガメがタヌキやヤマカガシ等の死骸を食べている事例等が報告されていますが、情報は非常に少なく、腐肉食動物としての役割はよく分かっていません。もし、野外でカメが生き物の死骸を食べている場面に遭遇した際は、ぜひとも写真に収め、生命のにぎわい調査団まで情報をお寄せください。
主に生き物の死骸を食べる鳥類と言えば、アフリカ大陸やユーラシア大陸に生息するハゲワシ類が有名ですが、日本には生息していません。日本国内には生き物の死骸を中心に食べる鳥類は生息していませんが、果実から動物、ときに生き物の死骸を食べる身近な鳥類が生息しています。その代表がカラス類です。
カラスと言えば家庭ごみを食い散らかす厄介者、といったイメージを持たれる方がいるかもしれません。しかし、カラスは生き物の死骸を食べ、生態系内から動物の死骸を素早く片づけるお掃除屋さんといった一面もあります。
思い出してみてください。散歩や車の運転中に道端や路上で死んでしまった哺乳類等の死骸を、カラス類が突いている場面を見かけたことはないでしょうか。
一枚目に写っているのは、クサガメ(成体)の死骸を食べるカラスです。日本には大きく成長したカメを食べる主要捕食者がいないため、死んでしまったカメはどのように分解されるのか不思議に思っていました。投稿された写真を見た限り、どうやら鋭いくちばしを使ってカメの甲羅に穴をあけ、中身を突いて食べるようです。草刈り機等によってもともと甲羅に傷を負った個体の可能性もありますが、鋭いカラスの嘴を見れば、堅い甲羅に覆われたカメなどの死骸も食べることができるのだな、と納得してしまいます。
2枚目は砂浜に打ちあがった大きな魚の死骸を食べるハシブトガラスです。よく砂浜を散歩する方はご存知かもしれませんが、意外にも浜辺には多くの生き物の死骸が打ちあがっています。中には、川から流されてきたと思われるクサガメやミシシッピアカミミガメ等の淡水生物の死骸が落ちていることもあります。それらの死骸の多くは頭や手足が無くなっていることから、カラス等に食べられたのかもしれません。もしかすると、頭のいいカラスは海辺を楽に餌が手に入る良い餌場として利用しているのかもしれませんね。
写真はクロスズメバチがカブトムシの死骸に群がっている場面です。
スズメバチというとオオスズメバチやキイロスズメバチ等のように小型昆虫を襲って食べる捕食者のイメージが強いですが、クロスズメバチは昆虫や爬虫類、鳥類等の死骸も食べることが知られています。
水面に浮かぶイモムシの死骸に群がるコシマゲンゴロウです。ゲンゴロウ類は主に肉食の昆虫で、水面に落ちた昆虫、魚類やカエルなどの死骸を食べます。カメ類と同様に、水質悪化の抑制に一役買っているかもしれませんね。
写真はカエルの死骸を食べるオオヒラタシデムシの成虫(一番右の個体)と幼虫です。
見た目は非常にグロテスクですが、生態系を健全に保つ上でなくてはならないお掃除屋さんの一種です。見かけても踏んづけたりしないでくださいね。
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生き物を発見された際はまず、その生き物の写真を撮り、お手持ちの図鑑で調べてみてください。そして、「○○○」だと思うが特徴が少し違う、といったところまで調べていただけると助かります。
報告で種名が不明になっていた場合や、報告写真から判定して種名を変更した場合は、各月の報告一覧には、事務局で判定した種名を記入しています。
皆さんからいただく報告の中には、希少な生物の発見、生息状況の新たな発見、活き活きとした生きものの営み等の写真が多くあり、事務局としても大変楽しませていただいています。
環境省「 環境省HPー外来生物法のウェッブページ 」をご覧ください。