アメリカザリガニは、学校教材として取り上げられることの多い生物ですが、本来日本には生息していなかった生物です。元来アメリカのミシシッピ川流域を中心に生息していたザリガニで、1927年に人為的に日本に持ち込まれて以降、北海道から沖縄にかけての日本各地に分布を広げています。アメリカザリガニのようにもともとその地域にいなかったのに、人間の活動によって入ってきた生物のことを外来生物といいます。
アメリカザリガニは、各地で生態系に大きな影響を及ぼしていることから、環境省によって「条件付特定外来生物」に指定されるとともに、日本生態学会によって作成された「日本の侵略的外来種ワースト100」にも選定されています。
「条件付特定外来生物」とは外来生物法に基づき特定外来生物に指定された生物のうち、通常の特定外来生物の規制の一部を、当分の間、適用除外とする(規制の一部がかからない)生物の通称です。
条件付特定外来生物は飼育等、譲渡し等に関する規制の一部が適用除外となり、一般家庭等での飼育等や少数の相手への無償での譲渡し等については許可なしで行うことができます。
一方で、販売・頒布を目的とした飼養等、販売・頒布・購入、輸入、野外への放出等については原則として通常の特定外来生物と同様の規制がかかります。
千葉県には、本来、ザリガニの仲間は1種も生息していませんでした。現在、県内の水系でみられるザリガニは、全て外来種のアメリカザリガニであり、県内各地で生物多様性の保全上、非常に大きな問題を引き起こしています。
アメリカザリガニは、湖沼やため池、水田、公園の池など、多くの環境に適応して分布しています。雑食性で、さまざまな環境の動植物を摂食することから、以下のような影響が生じています。
・絶滅危惧種を含む水生昆虫や魚類を捕食するため、多くの生物に影響を及ぼし、貴重な生物の絶滅の一因となります。
・水草を摂食・切断して水生植物群落を壊滅させます。
・稲の苗を摂食・切断する、畦に穴を開ける、などの農業被害をもたらします。
・ザリガニを駆除するために農薬が使用されることになってしまうと、間接的に他の多くの在来生物にも影響を与えます。
アメリカザリガニは、現在わずかに残されている固有の生態系を維持してきた里山環境にも進出しています。そのため、里山の貴重な生態系が破壊されようとしています。これ以上以外を拡大しないため、以下のような注意が必要です。
・「条件付特定外来生物」は野外への放出(逃げ出した場合も含む)が法律で禁止とされ、違反すると罰則・罰金が科されることがあります。飼育している個体は最後まで責任を持って飼いましょう。
・飼育の継続が困難となった場合には、引取り先を探して責任を持って飼育できる方に譲渡を行ってください。
・学校教育等の教材としてアメリカザリガニ等の外来種をできるだけ使用しないよう注意してください。やむを得ず教材として利用する場合にはアメリカザリガニが外来種であることや、アメリカザリガニが引き起こす問題点について必ず説明し、利用した際は最後まで責任を持って飼いましょう。
現状では、アメリカザリガニを完全に駆逐するのは非常に困難だと思われますが、アメリカザリガニについての問題を正しく認識し、これ以上アメリカザリガニによる被害を拡大させないようにする必要があります。
・外来種ハンドブック. 日本生態学会編, 2002, pp390, 地人書館.
・日本の外来生物. 自然環境センター編著, 2008, pp.480, 平凡社.